ロシア沿海州の蝶と自然

モンゴリナラの林に朝陽が差し込み、大陸の大草原の朝が始まる。ここは極東ロシアの最南端、ガモフ半島。北朝鮮や中国との国境まですぐのところだ。海岸に大草原が広がり、モンゴリナラの林が入り混じる。まるで霧ヶ峰がそのまま日本海に没したような絶景。

朝露に包まれた大草原に踏み込むと、翅を乾かすウスイロヒョウモンモドキやヒメヒカゲ。日本では信州にのみいるコヒョウモンモドキと、中国山地にだけ見られるウスイロヒョウモンモドキが、ロシアでは同じ草原で混じりあって飛んでいるのを見ながら、生物の歴史の不思議を考える。

抜けるように青い空、そしてそれを映す海。草原の谷間ではクガイソウやキンバイソウの花が咲き乱れ、ヒョウモンチョウの仲間が集まる。暑い日中、草原にいた牛たちは海岸に下りていって涼を求める。時計も持たず、時間を忘れる尾根道で、クロシジミが縄張りを張り始めるのを見て、陽が傾いてきたのを知る。やがてカシワ林の上を飛び始めるカシワアカシジミの影がひとつ、またひとつ。ほどなく数十、数百の大群舞となって、オレンジの花吹雪が波のように梢をうねる。日没直前まで続く乱舞に興奮さめやらぬまま、暗くなった夜道を海岸までたどる。

人口密度が低く、開発の必要がなかったので残されてきたこの自然。すでに経済の発展とともに年々姿を変え始め、舗装道路や大規模な開発の影がちらつき、真っ青な空や草原に翳りを落とし始めた。